House in Miyota
- プロジェクト名: 御代田の家
- 竣工日: 2022.01
- 所在地: 長野県北佐久郡
- 担当領域: 建築デザイン
- 用途: 個人住宅
- 延床面積: 113.45㎡
- プロジェクトチーム: 岡部修三、吉川友司 (Design)、上川聡 (Management)
- 施工: 大井
- コラボレーション: ANDO Imagineering Group (Structure design)
- 写真: 志摩大輔
リモートでの仕事が現実的になり、東京に縛られる必要がなくなった今、子育てや生活環境のバランスを考えて移住を考える人は多い。東京から90分に位置する長野県は最も人気の移住地の一つであり、その中でも御代田町は、隣の別荘エリア軽井沢とは異なる、より静かな日常の場として人気が高い。こうした、新しくも極めて現代的な背景の住宅に、新しい社会の価値を追求し続けているデザインエンジニアの施主と“共に“取り組むこととなった。
常々、この”共に”と言うニュワンスが住宅設計においては非常に重要だと考えている。なぜなら、究極的には住宅設計の答えは住む人にしか分かり得ない、と言うことに尽きる。そうした前提の上で、その答えを適切に、そして思いもよらなかった気づきを加えながら、最終的にその気づきが時間の経過とともに広がっていくような住宅を考えたい。
敷地は、10Mに迫る木に囲まれた、静けさと解放感の共存する気持ちの良い角地で、緩やかに傾斜する地形による水はけと、強固な地盤に恵まれた土地であった。そんな自然との関係性を大切にしながら、同時に、見方を変えれば厳しいとも言える、自然の中での暮らしを日常にするための、適切な環境を考えることとした。
まずはじめの判断として、家族が集まる生活の中心を2階に構えることがあった。(別荘ではなく)日常の場として考えると、自然は常に生活の隣にあるため、住むための環境は適度に自然と距離をとる方が良い。このシンプルな判断こそ、ここでの住まい方を決定づけている。結果として、2階にできる限り大きな空間を確保して、1階に家族それぞれのための個室を配置することとなった。
1階はそれぞれのプライベートな空間を樹木を避けながら配置して、結果、雁行する形状を活かして、それぞれの個室にプライバシーと2面採光を両立させている。また、開口部をスクエアの共通サイズに揃えることで、内部からの景観と外観としてのリズムとバランスを両立している。ワークスペースはエントランスに隣接させて、同じ屋根の下ではあるものの、靴を脱ぐことでオン/オフの切り替えを促す仕掛けとしている。1階の中心にはクローゼットを配置し、家族で共有することで空間を有効活用するとともに、将来的な子供の自立を見据えたフレキシブル性を確保している。
2階は1階の雁行した形状をそのまま立ち上げることで生まれる隅を居場所として活かし、その形状と連動するように天井高を操作をすることで、大きなワンルームの空間にリズムを生み出している。2階フロアとシームレスにつながるテラスは、手すりの高さと開口の向きをコントロールすることで、生活の中で、カーテンが必要のない大開口を達成している。2階にある唯一の個室はガラス張りの趣味のスペースで、家事と趣味をひと繋がりに楽しめるように配慮している。
自然の中での暮らしを日常にするために、温熱環境についてひとつの目標を立てた。それは、冬期の外気温マイナス10度になるこのエリアで、汎用エアコン一台(今のところ)で、冬でも暖かく快適に過ごせること。外断熱された基礎空間とコンクリートの蓄熱を利用した床下エアコンによって、1階の個室を温め、2階の大きなワンルームは、楽しみとして必要なだけ薪ストーブを併用する。そんなバランスを断熱性能と気密性能を確保することで達成している。外壁は、焼杉の表面を掻き落とした上に浸透性の自然塗料を塗ることで、奥行きのあるグレーの質感を追求し、リブも含めてボリュームのプロポーションを整えることで、周囲に馴染みつつ主張する佇まいを目指した。
完成して暫くして訪ねた際、棚が増え、網戸がカスタムされ、よりちょうど良く調整され続ける様子を見て嬉しくなった。改めて、住宅における建築家の役割は、普遍的な良い骨格を提供することにあると確信した。それは、“共に”そのちょうど良さを探求した結果であり、その先にそこにしかない環境があると信じている。